生成AIの使いどころ
トップ / 倭の五王の記録を漢文のまま生成AIに訳させると誤りは出るのか|古典の漢文とAIの研究

倭の五王の記録を漢文のまま生成AIに訳させると誤りは出るのか|古典の漢文とAIの研究

漢文を読み上げる声が、試験前の復習で読み方の決まらない箇所に来ると止まります。画面に現代語の訳が出れば、その先も読めそうに感じます。倭の五王は、中国の史書に記録された倭の王たちを指す呼び名です。その記録を読む場面では、歴史の内容をつかむことと、漢文を日本語の順序で読むことが重なります。

この記事の要点

倭の五王の記録を漢文のまま生成AIに訳させると誤りは出るのか|古典の漢文とAIの研究

漢文を読み上げる声が、試験前の復習で読み方の決まらない箇所に来ると止まります。画面に現代語の訳が出れば、その先も読めそうに感じます。倭の五王は、中国の史書に記録された倭の王たちを指す呼び名です。その記録を読む場面では、歴史の内容をつかむことと、漢文を日本語の順序で読むことが重なります。

生成AIに原文を渡せば、人名や官職名を保った訳と、試験で使える書き下し文まで得られるかが気になるところです。漢文を扱うAIには理解や翻訳の課題が残るため、出てきた訳を誤りのない書き下し文として丸ごと覚える使い方は勧められません。一方で、日本語への直接の翻訳を高く評価した研究もあり、漢文なら何もできないという見方も適切ではありません。読む順序、字に付ける注記、文全体の意味を分けると、どこを自分で見直すかが具体的になります。試験前に必要なのは、長く整った解説を増やすことより、覚えようとしている訳の根拠をたどれる状態です。

要点

倭の五王の現代語訳と書き下し文を分ける

漢文訓読は、漢文を日本語の語順と読み方で読む方法です。書き下し文は、その読み方に沿って仮名などを補って書き表した文で、意味を今の日本語で説明する現代語訳とは役割が違います。現代語訳だけなら内容をつかめても、原文のどの字をどの順で読んだかは見えにくくなります。生成AIに頼む前に、問題が求めているのが意味の説明か、読む順序か、書き下しなのかを分けておきます。

Wang(2023)は、漢文から訓読文へのデータを作り、字の並べ替えと翻訳を別の課題として扱いました。研究でいう言語モデルは、大量の文章から語の並びを学習する仕組みで、生成AIの土台にもなっています。対象は漢文から訓読文への変換で、研究者は機械の評価と人の採点を比べ、どの評価方法が適切かも検討しました。この研究の意義は、訳の出来だけでなく、訓読の途中にある作業も測る対象にした点にあります。

Li(2026)が対象にしたのは漢文から日本語への翻訳と字ごとの注記です。大規模言語モデルは直接の翻訳では高い得点を出し、字ごとの注記の質には研究で提案した方法を補助として使う余地があると報告しました。ここでいう注記は、返り点や送り仮名のように、原文の字をどう読むかに関わる印です。文全体の訳に高い評価が付くことと、それぞれの字の読み方を正確に示せることは、別々に見る必要があります。

倭の五王の記録でも、なめらかな日本語の訳を見た時点で、書き下しまで正しいと判断するのは早計です。現代語訳には読み手の理解を助ける言葉が入り、原文と同じ形ではなくなります。書き下しを学ぶときには、説明のわかりやすさに加えて、原文と対応づけられることを重視します。

古典の理解を測る研究では苦手も残っています

よく使う漢字が並んでいても、日常の日本語の文章を説明する課題と漢文の読解は同じではありません。Cao(2024)は、汎用の大規模言語モデルが漢文理解、とりわけ知識を多く要する課題に苦戦すると述べています。著者らは漢文向けのモデルTongGuを作り、知識を検索して答えの根拠にする仕組みを加えました。その狙いには、原文や事実に根拠のない内容をもっともらしく出すハルシネーションを減らすことが含まれています。

Wei(2024)は、歴史・地理・慣習・思想・詩文などにまたがる13課題で古代中国語の理解を評価しました。英語向けと中国語向けの上位の言語モデルを対象にしても、古典理解には大きな改善の余地があるという結果でした。扱ったのは古代中国語の理解課題であり、試験勉強をする生徒の成績ではありません。翻訳の評価と理解の評価を、下の表で分けて読めます。

研究 対象 評価したこと・比べたもの 研究で言えること
Wang(2023) 漢文から訓読文への変換 字の並べ替えと翻訳、機械の評価と人の採点 訓読に関わる作業を課題として切り分けています。
Li(2026) 漢文から日本語への翻訳と字ごとの注記 直接の翻訳と、注記を扱う方法 直接の翻訳は高得点で、注記には補助する余地があります。
Wei(2024) 古代中国語の理解課題 英語向けと中国語向けの上位の言語モデル 古典理解には大きな改善の余地があります。

Zhou(2023)は、文の分類や読解、翻訳などを含む漢文の評価用問題集を作り、当時の事前学習済み言語モデルが軒並み苦戦したと報告しました。事前学習は、個別の問いに答えさせる前に大量の文章から学ぶ段階を指します。評価されたのはChatGPT以前のモデルで、漢文の処理を測る基準を作る段階の研究です。この時期の結果と、先に見たLi(2026)の結果を分けると、漢文の処理を一律に得意・不得意と決めるより、課題と方法を示す読み方になります。

辞書と検索を組み込む改善は、短い頼み方とは違います

Lv(2025)は、『史記』の一部を現代中国語に訳す際、辞書による語の解釈、文章の生成、訳の見直しを分担させる仕組みを試しました。検索した情報を生成に使う方法も組み合わせ、単一のモデルだけで訳す条件と比べています。BLEURT、BLEU-1、METEORという翻訳の自動評価指標で、平均18.8-25.7%の改善を報告しました。これらは訳の出来を機械で点数化する指標であり、誤った人名がその割合だけ減ったという意味ではありません。

この研究では、語が文脈によって複数の意味を持つことや、文化的な含みを保つことを、仕組みの中で扱っています。ひと続きの訳文を作って終えるのではなく、語の段階から調べ、生成後にも見直す設計です。試験前の読者にとって参考になるのは、読みやすい完成文だけを評価するのではなく、語の解釈を支える情報に目を向ける発想です。

この改善幅が表すのは現代中国語の訳の自動評価で、日本語の書き下しの正答率とは測定対象が違います。辞書や検索を実際につないだ仕組みと、対話欄に慎重に訳すよう書き込むことも違います。AIが検索したと説明していても、参照先と該当箇所が示されているかを別に扱います。サービスで使える検索機能や資料の扱いは、その時点のサービスの説明を読み、研究の仕組みと同じものだと決めつけないようにします。

試験前に研究用の仕組みを再現しようとすると、訳を読む以外の作業が増えます。辞書から必要な語義を選ぶことも、検索結果が原文のどこに関係するかを見極めることも、学ぶ側の仕事として残ります。そこで日常の復習では、調べる語と見直す箇所を絞り、訳文全体を何度も作り直す前に疑問の所在を書き留める方法が考えられます。

同じ漢字の資料でも、学習データの効果は一様ではありません

漢字で書かれた記録なら、中国の古典を多く学んだモデルが広く処理できるという見方があります。Song(2025)は、この前提を朝鮮と日本の歴史文書で検討しました。中国の漢文のデータを加えても朝鮮の文書の翻訳や固有名詞の抽出、句読点の復元への効果は小さく、日本と朝鮮で大きく役立ったのは、それぞれの地域のデータが極めて少ない条件でした。文字の共通性だけで、追加の学習資料の効果を決められないという結果です。

固有名詞の抽出は、文章から人名や地名などを見つけて区別する作業です。翻訳の前後で名前に目を向ける理由は、文として読みやすくても、誰について述べているかの対応を別に扱う必要があるためです。官職名についても、普通の語として言い換えられた部分と、名称として保たれた部分を区別して読めます。これは誤りの実例を作ることではなく、出力を見る観点を決める作業です。

この研究が扱った各地の歴史文書と、中国側の史書にある倭の五王の記事では、資料の位置づけが違います。今回引いた研究には、その記事を生成AIに訳させ、人名・官職名・年代の誤りを数えたものはありませんでした。したがって、ここで挙げる確認項目は、倭の五王の訳で頻発すると実証された誤りの順位ではなく、試験前に訳の対応を点検するための提案です。調査された文書の範囲を意識すると、関連する研究を特定の史料の実験結果と取り違えずに済みます。

AIに追加の歴史解説を求めると、原文の訳と、原文の外の説明が同じ回答に並ぶことがあります。訳の学習では、原文に対応する部分だけを扱う欄と、背景の説明を読む欄を分けると目的が明瞭になります。説明が長いほど訳の根拠も多いと判断せず、訳語に対応する文字を指せるかを見ます。

試験前は原文・書き下し・訳の対応を点検する

最初に、問題が求める答えの形式を読みます。書き下しを求められているなら、AIの現代語訳をそのまま答えの候補にせず、原文とは別の欄に置きます。入力する原文についても、字の抜け、改行による切れ目、付いている注記を自分で見ておきます。入力に疑問がある箇所を残したまま、訳文の整い方だけを評価するのは避けます。

次に、人名と官職名に当たる部分を先に抜き出し、用語集で名称と扱いを確かめます。読む順序と書き下しは、教科書・資料集に載る書き下し文と照らし、違う箇所に印を付けます。年代を表す部分は、AIの説明で補われた内容と原文の表現を分けておきます。差があるときは、訳の全体を正しいか誤りかで一括せず、名前、順序、補われた語のどこに差があるかを書き添えます。

AIを補助に使うなら、「この原文と書き下し文の対応を示し、説明のために補った語を分けてください」と短く頼む方法があります。この指示の目的は、答えの形を点検しやすくすることで、正しい訳を保証することではありません。指摘された箇所が原文に見当たらない場合や、理由の説明が途中で変わる場合には、その部分を暗記する候補から外します。わからない字に印を残すほうが、理由を追えない訳を確定させるより疑問を保てます。

書き下しの根拠がたどれないまま試験前の時間が少なくなったら、新しい訳を生成させる作業はいったん止めます。すでに根拠を押さえた部分と未解決の部分を分け、後者は質問できる形のメモにします。原文、迷った読み、対応が途切れた場所が残っていれば、あとで何に困ったかを説明できます。AIの回答を次々に増やすより、読みの不明点を狭めるための使い方です。

保護者は訳を覚える前の「掲載箇所」に目を向ける

保護者が見る点は、子どもが訳を覚える前に、書き下し文の載っている教科書の箇所を示せるかです。漢文の知識を保護者がその場で試したり、訳文を採点したりする必要はありません。子どもが該当箇所に付箋を挟む、ページを開いた状態にするなど、所在が見える形なら短いやりとりで済みます。完成したAIの訳の長さより、暗記の土台となる箇所が定まっているかに目を向けます。

本の題名だけを答えられる状態と、書き下し文のある箇所を示せる状態は違います。該当箇所がまだ見つかっていなければ、保護者はその状態を急いで正解・不正解に分けず、暗記を始める段階には来ていないと受け止めます。子どもが示せたら、そこから先まで質問を広げず、復習に戻れるようにします。掲載箇所を示すことを、親子で訳の知識を競う場面にしないためです。

試験前には、読み方を迷っている時間がそのまま遅れに感じられることもあります。そこで画面に完成文が出ると、終わった感覚を得やすくなります。保護者の短い関わりは、その完成感を否定するためでなく、どの書き下しを覚えようとしているかを曖昧にしないために置きます。AIを使ったかどうかより、掲載箇所を子ども自身が示せる状態に注目する関わりです。

漢文を読む声が止まる箇所は、訳文の見た目だけでは解決しません。原文の字、読む順序、意味のつながりを追えると、止まった理由を言葉にできます。試験前の復習で生成AIに任せる範囲は、読みの疑問を具体的にし、根拠のある書き下しとの対応を点検できる場面に限られます。

よくある質問

現代語訳が自然なら、書き下し文も使えますか

自然さだけでは判断できません。現代語訳は意味を伝えるために語順や表現を変えますが、書き下しでは原文をどう読むかの対応が重要になります。先に見たLi(2026)の結果も、直接の翻訳の評価と字ごとの注記の質を分けています。試験で書き下しを求められたときには、完成した訳文から逆に読む順序を推測するより、原文の各部分との対応を先に書き出す方法が考えられます。

AIに自分の訳を見直させれば、誤りは消えますか

見直しを頼むだけで誤りが消えるとは判断できません。先に見たLv(2025)の方法は、語の辞書や検索、役割の分担を組み込んだ翻訳の仕組みです。日常の対話で同じ答えを再点検させる場合は、訂正した箇所と、その理由に挙げた原文の文字を残します。訂正後の文だけを保存すると、どこを変えたのかも、変更の根拠を追えるのかも見えなくなるためです。

人名や官職名の読みが難しい場合は、最初から全文を訳させますか

まず疑問のある語を区切り、その語の扱いを調べる対象にします。全文の訳が出ると、その語がどんな判断で訳されたかが文の流れに埋もれやすくなります。前後の原文も残しておけば、語だけを切り離して意味を決めることを避けられます。ノートには名称として残した部分と説明語に置き換えた部分を分け、迷いが解けていない部分に印を付けます。

この記事の限界

適用範囲は、漢文の処理を測る評価用課題や、中国・日本・朝鮮の歴史文書を扱う翻訳研究が中心です。言語モデルの出力を評価した結果であり、生徒の母語や学年をそろえ、試験前から試験後まで学習を追い、訳を使わない場合と比べた理解や記憶の測定ではありません。

Zhou(2023)のようなChatGPT以前の評価と、TongGuなど特定の方法の研究が含まれ、現在の対話型サービスでも同じ成績や弱点が出るかは別途の評価を要します。生成AIの漢文の訳を日本の中高生が試験勉強に使ったときの理解や記憶への影響は、研究の上ではまだ空白のままです。

参考文献

  1. Wang H ほか. Kanbun-LM: Reading and Translating Classical Chinese in Japanese Methods by Language Models. In: Findings of the Association for Computational Linguistics: ACL 2023. 2023:8589-8601. doi:10.18653/v1/2023.findings-acl.545
  2. Li Z ほか. Translation via Annotation: A Computational Study of Translating Classical Chinese into Japanese. In: Proceedings of the 19th Conference of the European Chapter of the Association for Computational Linguistics (Volume 1: Long Papers). 2026:6031-6045. doi:10.18653/v1/2026.eacl-long.285
  3. Lv W ほか. A multi agent classical Chinese translation method based on large language models. Sci Rep 2025;15(1):40160. PMID 41249275 doi:10.1038/s41598-025-23904-0
  4. Cao J ほか. TongGu: Mastering Classical Chinese Understanding with Knowledge-Grounded Large Language Models. In: Findings of the Association for Computational Linguistics: EMNLP 2024. 2024:4196-4210. doi:10.18653/v1/2024.findings-emnlp.243
  5. Wei Y ほか. AC-EVAL: Evaluating Ancient Chinese Language Understanding in Large Language Models. In: Findings of the Association for Computational Linguistics: EMNLP 2024. 2024:1600-1617. doi:10.18653/v1/2024.findings-emnlp.87
  6. Song S ほか. Shared Heritage, Distinct Writing: Rethinking Resource Selection for East Asian Historical Documents. In: Proceedings of the 14th International Joint Conference on Natural Language Processing and the 4th Conference of the Asia-Pacific Chapter of the Association for Computational Linguistics (Findings of IJCNLP-AACL 2025). 2025:1591-1610. doi:10.18653/v1/2025.findings-ijcnlp.98
  7. Zhou B ほか. WYWEB: A NLP Evaluation Benchmark For Classical Chinese. In: Findings of the Association for Computational Linguistics: ACL 2023. 2023:3294-3319. doi:10.18653/v1/2023.findings-acl.204

AIのもっともらしい間違いを、ひとつずつ一緒に疑う時間

このサイトは武蔵野個別指導塾の運営者が制作しています。武蔵境駅から徒歩30秒、講師が一人の生徒に付きっきりの完全1対1で、大学教員や東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学の大学院生などが教えます。アルバイト講師はいません。

武蔵野個別指導塾の国語塾案内

よくある質問

現代語訳が自然なら、書き下し文も使えますか

自然さだけでは判断できません。現代語訳は意味を伝えるために語順や表現を変えますが、書き下しでは原文をどう読むかの対応が重要になります。先に見たLi(2026)の結果も、直接の翻訳の評価と字ごとの注記の質を分けています。試験で書き下しを求められたときには、完成した訳文から逆に読む順序を推測するより、原文の各部分との対応を先に書き出す方法が考えられます。

AIに自分の訳を見直させれば、誤りは消えますか

見直しを頼むだけで誤りが消えるとは判断できません。先に見たLv(2025)の方法は、語の辞書や検索、役割の分担を組み込んだ翻訳の仕組みです。日常の対話で同じ答えを再点検させる場合は、訂正した箇所と、その理由に挙げた原文の文字を残します。訂正後の文だけを保存すると、どこを変えたのかも、変更の根拠を追えるのかも見えなくなるためです。

人名や官職名の読みが難しい場合は、最初から全文を訳させますか

まず疑問のある語を区切り、その語の扱いを調べる対象にします。全文の訳が出ると、その語がどんな判断で訳されたかが文の流れに埋もれやすくなります。前後の原文も残しておけば、語だけを切り離して意味を決めることを避けられます。ノートには名称として残した部分と説明語に置き換えた部分を分け、迷いが解けていない部分に印を付けます。