第二言語動機づけ自己システムとは|生成AIと英語で話す練習で「なりたい自分」の像は強まるのかを整理するQ&A
通学路を歩く足が止まり、思い浮かべた英語の続きを小声で口にします。英語を使う自分の姿と学ぶ気持ちの関係を考える枠組みが、第二言語動機づけ自己システムです。なりたい姿、周りから求められる姿、学習の経験から、母語以外の言語を学ぶ意欲を捉えます。生成AIとの会話でその姿が鮮明になり、英語の力まで伸びるかが気になるところです。話す意欲を後押しする機械との練習には可能性がありますが、理想の像と実力の伸びは分けて考える必要があります。
- 言語学者ドルニェイが提案した考え方で、L2は母語以外に学ぶ言語を指します。
- 将来の自分を思い描く活動で、像が強まった報告はあります。
- Tai(2023)は、中学相当の8年生112人が音声アシスタントと2週間英語で話す活動を調べました。
- Fryer(2017)は、外国語を学ぶ学生122人を対象に、12週にわたって人とチャットボットを相手にした課題への興味を調べました。
第二言語動機づけ自己システムとは|生成AIと英語で話す練習で「なりたい自分」の像は強まるのかを整理するQ&A
通学路を歩く足が止まり、思い浮かべた英語の続きを小声で口にします。英語を使う自分の姿と学ぶ気持ちの関係を考える枠組みが、第二言語動機づけ自己システムです。なりたい姿、周りから求められる姿、学習の経験から、母語以外の言語を学ぶ意欲を捉えます。生成AIとの会話でその姿が鮮明になり、英語の力まで伸びるかが気になるところです。話す意欲を後押しする機械との練習には可能性がありますが、理想の像と実力の伸びは分けて考える必要があります。
第二言語動機づけ自己システムは何を説明する考え方ですか
言語学者ドルニェイが提案した考え方で、L2は母語以外に学ぶ言語を指します。「理想のL2自己」は、英語で自分の考えを伝えるような、なりたい自分の像です。「義務のL2自己」は周囲の期待に応えなければという自分の像で、「学習の経験」は学ぶ活動や環境への受け止めを指します。第二言語動機づけ自己システムは、意欲を本人の気合いだけで説明しないための見方です。
Al-Hoorie(2018)は、32報告、32,078人の言語学習者を含むメタ分析を行いました。メタ分析は、複数の研究結果をまとめて計算し直す方法です。理想のL2自己は「がんばるつもり」との相関がrs = 0.61、実際の成績との相関がrs = 0.20で、後者との結びつきは弱い結果でした。相関は一緒に変化する傾向なので、像を強めればその分だけ成績が上がる、という原因と結果の証明ではありません。
「なりたい自分」の像は練習で変わりますか
将来の自分を思い描く活動で、像が強まった報告はあります。Safdari(2021)は、イランの成人の英語学習者51人を対象に、活動を行う群と対照群を比べました。活動を行った群では、理想のL2自己や学ぶ努力の意図などが伸び、周囲から求められる義務のL2自己は変わりませんでした。生成AIを使わず、質問紙で本人の感じ方を測った研究です。
この結果を練習の準備に生かすなら、漠然と流暢さを求めるより、英語で伝えたい内容を具体的にする方法が考えられます。たとえば通学路で目に入る景色について、何を伝えたいかを日本語で思い浮かべ、それを英語で言ってみます。AIの長い返事を読むことより、自分が言いたかった内容に目を向けるための工夫です。
機械と英語で話すと意欲や力は伸びますか
Tai(2023)は、中学相当の8年生112人が音声アシスタントと2週間英語で話す活動を調べました。活動後には、英語で話そうとする気持ちや自信が高まりました。Yang(2022)も、韓国の10〜15歳の英語学習者314人が音声チャットボットと話す課題で、平均9.63回のやりとりがあったと報告しています。どちらも現在の生成AIより前の仕組みを使い、英語を口にする活動を調べています。
学習成果については、Zhang(2023)がチャットボットを用いた語学学習の18研究、61標本をまとめ、平均の効果量g = 0.527を報告しています。効果量は、差の大きさをばらつきを物差しにして表す値で、この分析では中程度の効果とされました。これは主に学習成果をまとめた値であり、なりたい自分の像が強まった量ではありません。会話の量、話す気持ち、学習成果という別々の測り方を、同じ「伸びた」にまとめない読み方が必要です。
興味が薄れたときはどう続ければよいですか
Fryer(2017)は、外国語を学ぶ学生122人を対象に、12週にわたって人とチャットボットを相手にした課題への興味を調べました。生成AI以前のチャットボットとの課題では、最初の課題の後に興味が下がり、人との課題では下がりませんでした。Huang(2022)のレビューでも、最初だけ新鮮に感じる「目新しさの効果」や、頭にかかる負担が課題に挙がっています。始めたときの楽しさだけを見て、長く続くと判断するのは早計です。
練習では、AIの返事の長さより、自分が言えずに止まった内容に注目します。話し終えたら、その内容を短い言い方にして、返事を見ずに言えるか試します。聞き取りや操作に追われ、自分の発話が減るなら、AIを使わずに知っている表現を口にする練習に切り替えます。使うサービスの音声の扱いや利用条件は、各サービスの最新の説明で確かめます。
保護者が見る点は、AIとの英語の会話が2週間を過ぎても続いているかです。始めた日の熱中ぶりだけで評価せず、その後も本人が会話に戻っているかを話題にします。通学路では安全に立ち止まれる場所で短く口にし、歩きながら画面を追う使い方は避けます。ここで提案するAIの役割は、自分の伝えたい内容を口に出す補助の場面に限られます。
よくある質問
理想の姿がはっきりしないと英語は学べませんか
はっきりした将来像だけが、学ぶ気持ちを支えるわけではありません。この考え方には学習の経験も含まれるので、今の活動で話しやすかったことや興味を持った内容から考え始められます。
会話を重ねた回数は上達の目安になりますか
回数は話す機会の目安ですが、英語の正確さや伝える力とは別です。先に見たYang(2022)の結果は、会話が成立した量を示しており、同じ内容を相手の助けなしで言えるかも練習後に試すと、記録の意味が明確になります。
AIの返事が長くて話す順番が回ってこないときはどうしますか
「返事を短くして、私が答えるのを待ってください」と頼む方法があります。指示の後も返事を聞くだけになっているなら、会話を止め、自分の言いたかった内容を短い英語で言い直す練習に戻します。
この記事の限界
比較の条件はそろっておらず、TaiとYangは対照群の記載がなく、Fryerは抄録に国と学年の記載がありません。機械との会話の研究は生成AI以前のものを含み、現在の生成AIで同じ結果になるかは未検証です。
今回集めた範囲には、生成AIとの英会話で理想のL2自己そのものが強まるかを測った研究も、日本の中高生の研究もありませんでした。この研究群では、生成AIとの英会話の練習と、なりたい自分の像と英語の成績を長く追う検討は、まだ手つかずです。
参考文献
- Al-Hoorie AH. The L2 motivational self system: A meta-analysis. Stud Second Lang Learn Teach. 2018;8(4):721-754.
- Safdari S. Operationalizing L2 motivational self system: Improving EFL learners’ motivation through a vision enhancement program. Lang Teach Res. 2021;25(2):282-305.
- Tai TY ほか. The impact of Google Assistant on adolescent EFL learners’ willingness to communicate. Interact Learn Environ. 2023;31(3):1485-1502.
- Yang H ほか. Implementation of an AI chatbot as an English conversation partner in EFL speaking classes. ReCALL. 2022;34(3):327-343.
- Zhang S ほか. Effect of chatbot-assisted language learning: A meta-analysis. Educ Inf Technol. 2023;28(11):15223-15243.
- Fryer LK ほか. Stimulating and sustaining interest in a language course: An experimental comparison of Chatbot and Human task partners. Comput Human Behav. 2017;75:461-468.
- Huang W ほか. Chatbots for language learning—Are they really useful? A systematic review of chatbot-supported language learning. J Comput Assist Learn. 2022;38(1):237-257.
AIのもっともらしい間違いを、ひとつずつ一緒に疑う時間
- 向く人: 生成AIの説明と教科書が食い違ったとき、どちらが正しいかを根拠から確かめたい生徒
- 向く人: 子どもが生成AIで調べた答えをそのまま信じていないか、気になっている保護者
- 向かない人: 宿題や小論文を生成AIに書かせて、早く提出できればよいと考えている人
- 向かない人: 答えの根拠には興味がなく、正解だけを短く知りたい人
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よくある質問
理想の姿がはっきりしないと英語は学べませんか
はっきりした将来像だけが、学ぶ気持ちを支えるわけではありません。この考え方には学習の経験も含まれるので、今の活動で話しやすかったことや興味を持った内容から考え始められます。
会話を重ねた回数は上達の目安になりますか
回数は話す機会の目安ですが、英語の正確さや伝える力とは別です。先に見たYang(2022)の結果は、会話が成立した量を示しており、同じ内容を相手の助けなしで言えるかも練習後に試すと、記録の意味が明確になります。
AIの返事が長くて話す順番が回ってこないときはどうしますか
「返事を短くして、私が答えるのを待ってください」と頼む方法があります。指示の後も返事を聞くだけになっているなら、会話を止め、自分の言いたかった内容を短い英語で言い直す練習に戻します。