使う前に決めておくルール
宿題のプリントを写真に撮ってAIに貼りつける前に、名前の欄を隠す。生成AIのルールとはそういう小さな動作のことで、このページでは先に決めておくことを8つ、国の機関の資料と各サービスの規約で確かめて書きました。
- 入れない情報を先に決めます。家庭なら「名前・顔・学校・成績は入れない」の1行で足ります。
- 年齢の条件と、入力が学習に使われるかどうかはサービスごとに違い、規約と設定の画面で確かめます。
- 人は長い説明ほどAIを信じやすいため、出力を確かめる人を決めておきます。
- 使ったことは隠さず、学校の課題ではサービス名・指示文・日付を残します。
- 生成物を実物として出さず、外に出す前に既存の作品に似ていないかを確かめます。
- 公的な資料も規約も改まるので、見直す日を決めて最新版を確かめます。
ルールは、困る前に決めておくものです
宿題のプリントを写真に撮って、AIの画面に貼りつける。その直前に、名前の欄が写っていないかを見る。ルールとは、たとえばそういう小さな動作のことです。
決まりごとは、事故のあとで作ると後手に回ります。先に決めておけば、迷ったときに戻る場所ができます。このページでは、決めておくことを8つに絞りました。
8つは思いつきで並べたものではありません。国の機関の資料、各サービスの規約、大学の指針を読み、重なるところを拾いました。どの資料の、いつの版かも書きます。読んだ方が、自分で最新版を確かめられるようにするためです。
- 入力してよい情報と、入れない情報の線
- 入力した内容が学習に使われるかどうかの設定と、年齢の条件
- 出力を確かめる人、使ったことの伝え方、記録の残し方
- 家庭・学校・小さな職場で、誰が何を決めるか
- 最後に、そのまま使えるチェックリスト
年齢ごとの家庭のルールは、学習・受験でどう使うかに表でまとめました。ここでは繰り返しません。生成AIそのものの得意と不得意は総論に書いています。
よりどころにした公的な資料は5つあります
「ルールを決めましょう」と言うだけなら、誰にでも言えます。大事なのは、何を根拠に決めるかです。次の5つを、2026年10月に原文で確かめました。
| 資料 | 出した機関 | 版と日付 | 誰に向けたものか |
|---|---|---|---|
| 初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン | 文部科学省 | Ver.2.0(2024年12月26日) | 教職員や教育委員会など、学校の関係者 |
| 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等 | 個人情報保護委員会 | 2023年6月2日 | 事業者、行政機関、一般の利用者 |
| AIと著作権に関する考え方について | 文化審議会著作権分科会法制度小委員会(文化庁のサイトに掲載) | 2024年3月15日 | 考え方の整理。法的な拘束力はないと明記 |
| AI事業者ガイドライン | 総務省と経済産業省 | 第1.2版(2026年3月31日) | 事業でAIを開発・提供・利用する者 |
| 大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて | 文部科学省 | 2023年7月13日 | 大学と高等専門学校 |
表のいちばん右の列を見てください。表の5つの中に、家庭だけに向けて書かれた資料はありません。一般の利用者に向けた留意点は、個人情報保護委員会の3点だけです。AI事業者ガイドラインは、仕事以外でAIを使う人を対象に含めないと書いています(総務省と経済産業省, 2026)。文部科学省のガイドラインも、読み手は学校の関係者です。しかも、使うことを一律に禁じたり義務づけたりするものではない、と断っています(文部科学省, 2024)。
つまり、家庭のルールの多くは、家庭で決めることになります。そのとき、学校向けや事業者向けの資料は借りられます。子どもを守る項目も、情報を守る項目も、すでに書かれているからです。以下では、借りた箇所を一つずつ示します。
1. 入力してよい情報の線を先に引く
いちばん先に決める項目です。迷ったときの原則は「入力したものが外に出ても困らないか」。困るなら入れません。
| 区分 | 扱い |
|---|---|
| 公開されている情報 | 入れてよい。他人の文章や画像を貼るときは、権利とサービスの規約を確かめる |
| 子どもの氏名・顔写真・学校名・成績 | 入れない。プリントや答案は、名前の欄を隠してから撮る |
| 職場の一般的な情報 | サービスの規約と職場の決まりを確かめてから |
| 顧客情報・個人情報 | 原則入れない。必要なら、学習に使われない契約や設定かを先に確かめる |
| 未公開の事業情報 | 入れる前に責任者の判断を仰ぐ |
| 他社から預かった情報 | 秘密保持の条件を確かめる。原則入れない |
| パスワード・認証情報・鍵 | 入れない |
なぜ入れないのか。個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、一般の利用者に3点を挙げました。入力した個人情報が機械学習に使われ、ほかの情報と結びついて出力されるおそれ。応答に、不正確な個人情報が混じるおそれ。そして、利用規約とプライバシーポリシーをよく確かめること、です(個人情報保護委員会, 2023)。
学校向けの資料は、もっと直接に書いています。児童生徒には、氏名や写真などの個人情報を入力させない。教職員は、特別な契約で守られた環境を除き、成績などの重要な情報を入力しない(文部科学省, 2024)。東京大学も2023年4月の文書で、機密情報、未公開の発明、入試問題の原稿、個人情報を質問に含めないよう求めました(東京大学, 2023a)。
職場では、もう一段の注意が要ります。同じ注意喚起は、個人情報を扱う事業者にも向けられています。本人の同意なく個人データを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法に違反することとなる可能性がある、とされています。だから、学習に使われないことを十分に確かめるよう求めています(個人情報保護委員会, 2023)。AI事業者ガイドラインも、個人情報や機密情報を不適切に入力しないよう注意を促しています(総務省と経済産業省, 2026)。自分の職場が当てはまるかどうかは、専門家に確かめてください。
家庭なら、決める文は1行で足ります。「名前・顔・学校・成績は入れない」。冷蔵庫に貼っておける長さです。
入力した内容は学習に使われるのか。設定は自分の目で見る
アカウントを作ったら、質問を打つ前に設定の画面を開きます。入力した内容が、AIの改良(学習)に使われるかどうか。その扱いはサービスごとに違い、多くは自分で切り替えられます。
3つのサービスについて、公式の規約とヘルプを2026年10月3日に確かめました。文部科学省も、対応の例を挙げています。学習させない設定ができるなら、その設定をして使う。入力から学習しないサービスを選ぶ、というものです(文部科学省, 2024)。
| サービス | 年齢の条件 | 学習への利用と設定 |
|---|---|---|
| Claude(個人向け) | 18歳以上。住んでいる地域で同意に必要な年齢がそれより高ければ、その年齢 | 会話をモデルの改善に使わせるかを、設定で選ぶ。断っていても、評価を送った会話と、安全審査の対象になった会話は使われる(Anthropic, 2025; Anthropic, 2026) |
| Gemini | 個人用と学校用のアカウントは13歳以上(国によって異なる)。仕事用のアカウントは18歳以上 | 「アクティビティの保存」をオフにすると、以降のチャットはAIモデルの改良に使われない。オフでも72時間は保持される(Google, 2026a; Google, 2026b) |
| ChatGPT(個人向け) | 13歳以上、またはその国で利用への同意に必要な最低年齢以上。18歳未満は保護者の許可が必要 | 内容が学習に使われることがある。設定の「Improve the model for everyone」(みんなのためにモデルを改善する)をオフにすると、以降の新しい会話は使われない(OpenAI, 2026a; OpenAI, 2026b) |
3社に共通する落とし穴があります。学習を断る設定にしていても、回答に「良い」「悪い」の評価を送ると、その会話は改良に使われることがあります。3社とも、そう書いています。個人情報が混じった会話では、評価のボタンを押さないでください。
改良に使われないチャットの形も用意されています。ClaudeのIncognito chats(シークレットのチャット)、Geminiの一時チャット、ChatGPTのTemporary chats(一時的なチャット)です。日本語の画面では、表示名が違うことがあります。どれも、モデルの改良には使われないと説明されています(Anthropic, 2026; Google, 2026b; OpenAI, 2026b)。ただし、Geminiの一時チャットも72時間は保持されます。「学習に使われない」と「すぐ消える」は同じではありません。
職場で使うなら、契約の種類を先に確かめます。上の表は個人向けの話です。法人向けや学校向けの契約では、扱いが別に定められています。たとえばOpenAIは、法人向けや教育機関向けのChatGPTとAPIの内容を、既定ではモデルの改良に使わないと説明しています(OpenAI, 2026b)。個人のアカウントに仕事の資料を入れる前に、ここを確かめてください。
設定の名前も、規約の文も変わります。この表は2026年10月3日の時点のものです。使う前に、自分の画面で確かめてください。有料プランにするかどうかの判断は課金の考え方で扱っています。
年齢の条件は、サービスごとに違います
13歳で使えるサービスがあり、18歳にならないと使えないサービスがあります。上の表のとおり、数字はそろっていません。「友だちが使っているから」は、条件を満たしている理由になりません。
ChatGPTの規約は、18歳未満に保護者の許可を求めています。保護者が子どものアカウントとつなぎ、学習に使わせるかどうかを管理する機能も説明されています(OpenAI, 2026a; OpenAI, 2026b)。Claudeの個人向け規約は18歳以上が条件です(Anthropic, 2025)。18歳未満の高校生が、自分で登録できるサービスではありません。
Geminiのヘルプには、保護者がファミリーリンクで管理する13歳未満の子どもについて、Geminiアプリへのアクセスをオフにできるとも書かれています。子どものアカウントを管理しているなら、その設定も見てください(Google, 2026a)。
学校については、文部科学省が手順を書いています。年齢制限や保護者の同意が必要かどうかを、最新の利用規約で確かめて守ること。子どもに使わせるときは、校長と担当の教師が約款を確かめ、必要に応じて事前に保護者の理解を得ること。小学生が直接使うことは、より慎重に見極めること、です(文部科学省, 2024)。
家庭で決めることは2つです。年齢をごまかして登録しない。学校が用意した環境があるなら、まずそれを使う。年齢に合わせた使い方の表は、学習・受験でどう使うかにあります。
2. 出力を確かめる人を決める
「AIが出したから」は理由になりません。誰が確かめたのかを、はっきりさせます。
- 事実・数値・固有名詞は、元の資料で確かめる
- 確かめた人の名前を残す
- 確かめられなかった箇所は、そう書いて残す
3番目が実務では効きます。「まだ確かめていない」を、「確かめた」と区別して残す。これだけで、あとから読む人が判断を誤りにくくなります。
なぜ、わざわざ人を決めるのか。人は、AIの答えを信じすぎるからです。米国に住む英語話者301人に、言語モデルの答えと説明を見せた実験があります。参加者は1人40問ずつ、その答えが正しい確率を見積もりました。使われた言語モデルは、GPT-3.5、PaLM2、GPT-4oの3つです。論文は2024年5月に投稿されたもので、いまのサービスで同じ結果になるかは確かめられていません。結果、標準の説明を読んだ人は、AIの正確さを実際より高く見積もる傾向がありました。さらに、説明が長いほど、答えの正しさは変わらないのに信頼が上がりました(Steyvers et al., 2025, Nature Machine Intelligence)。
この実験は米国の大人が対象で、問題はクイズに近い形式です。日本語の会話や子どもで同じ結果になるかは、調べられていません。それでも、受け取り方の注意としては使えます。長い説明ほど、一歩引いて読む。長さと正しさは別のものです。
もう一つ、助言の出どころを調べた実験があります。これは、文章を作るAIを使った実験ではなく、「AIからの助言」という表示の効き目を調べた実験です。報酬のかかった判断の課題で、助言が「AIのものだ」と知らされただけで、人は頼りすぎました。手元の情報や自分の見立てと食い違っていても、従ったのです。その結果、本人にも第三者にも不利な結果が、しばしば生じました。論文の要旨に参加者の人数は書かれていないので、ここでは挙げません(Klingbeil et al., 2024, Computers in Human Behavior)。
文部科学省のガイドラインも、人の側の思い込みを2つ挙げています。なめらかな文章を見ると正しいと感じてしまうこと(流暢性バイアス)。機械の判断に頼りすぎてしまうこと(自動化バイアス)。そのうえで、最後は人間が判断し、成果物に自分で責任を持つ姿勢が大切だとしています(文部科学省, 2024)。
サービスの側も、同じことを規約に書いています。Claudeの個人向け規約には、出力は詳しく具体的に見えても重大な誤りを含むことがある、とあります。正確さを自分で確かめずに頼るべきではない、とも書かれています(Anthropic, 2025)。作った会社が「確かめてください」と言っているのです。
職場なら、確かめる担当を名前で決めます。「誰かが見たはず」が、いちばん危ない状態です。家庭なら、子どもが「AIはこう言った」と話したときに、「教科書のどこに書いてある?」と聞きます。確かめ方の手順は調べ物での使い方にまとめました。
3. 使ったことを隠さない
レポートの最後に「この段落はAIに直してもらいました」と1行足す。それで済む場面は多くあります。こじれるのは、黙っていて、あとから分かったときです。
ただし、使ってよいかどうかは場面で変わります。次の場面では、先に決まりを確かめるか、使ったことを書き添えてください。
- 学校や大学の課題(授業ごとに決まりが違うことがある)
- 公募・コンクール・入試の出願書類(応募要項に定めがあることがある)
- 納品物(契約に定めがあることがある)
- 報道・記録(事実かどうかが問われる)
学校の課題について、文部科学省は書き方の例を示しています。課題に生成AIの出力を引用するなら、サービスの名前、入力した指示文、使った日付を明示する。本やウェブから引用するときと同じ扱いにする、という考え方です(文部科学省, 2024)。
大学では、国の周知と各校の方針がそろって出ています。文部科学省は2023年7月13日、使ったこと、使ったAIの種類、使った箇所を明記させることが有効だと各大学に伝えました。AIが書いたかを判定するツールの結果を過信しないことも、あわせて求めています(文部科学省, 2023)。
大学の例を2校挙げます。東京大学は2023年5月26日に学生向けの方針を出しました。一律には禁止しない。使ってよいかどうかは、授業ごとに担当の教員が決める。AIが生成した文章をそのまま自分の文章として出すことは認めない。どのツールを使ったかの記載を求められることがある、という内容です(東京大学, 2023b)。
大阪大学は2023年4月17日に学生へ呼びかけました。得られた回答の真偽を確かめずに自分の言葉として発信すれば、リスクをはらむ。成果物を作るだけでは学びは深まらない、と書いています(大阪大学, 2023)。どちらも2023年の文書で、2026年10月に掲載を確かめました。いまの各授業の決まりは、シラバスや先生の指示が優先です。
小さな職場にも、関係する項目があります。AI事業者ガイドラインは、AIの出力を特定の人の評価の参考にする場合を取り上げています。そのときは、AIを使っていることを、評価される本人に知らせる。人間が判断し、求めに応じて説明する。そう求めています(総務省と経済産業省, 2026)。採用の書類選考にAIを使うなら、ここが当てはまります。
4. 生成物を「実物」として使わない
AIが作ったものを、本物の写真、本人の発言、実際の体験として出さない。信用を一度に失う使い方が、ここに集まっています。
- 生成した画像を、実際に撮った写真として見せない
- 実在の人物の発言として書かせない
- 体験していない人の体験談を作らない
- 実在の団体やブランドを名乗らない
- 存在しない実績や証明書を作らない
3番目は、店や会社の口コミで起きやすい問題です。消費者庁は、広告なのに広告だと分からない表示を、2023年10月1日から景品表示法違反としています。レビューの投稿も対象に含まれ、規制されるのは商品やサービスを出している事業者です(消費者庁, 2023)。
店が自分で「お客さまの声」をAIに書かせ、客の感想のように載せたらどうなるか。それがこの規制に当たるかどうかは、表示の中身で決まります。この記事では断定しません。迷ったら、載せる前に専門家に相談してください。作ったのが人でもAIでも、読む人を誤らせる点は同じです。
似ていないかを確かめてから、外に出す
AIで作ったイラストを、店のチラシに載せる。学校だよりの挿絵にする。SNSに上げる。外に出す前に、一度立ち止まる項目です。
文化庁の審議会の小委員会は、2024年3月15日に考え方をまとめました。AIの生成物でも、既存の著作物と表現が似ていて(類似性)、それを基に作った(依拠性)と認められれば、著作権侵害になりうる。人がAIを使わずに作る場合と同じ考え方をとる、とされています。この文書は、それ自体に法的な拘束力はないと冒頭で断っています(文化審議会著作権分科会法制度小委員会, 2024)。個別の判断は裁判所がするものです。詳しくは専門家に確かめてください。
では、利用者は何をすればよいのか。文部科学省のガイドラインは、授業の外で使う場合の確認を2つ挙げています(文部科学省, 2024)。
- キャラクターの名前など特定の固有名詞を入力して、既存の作品に似たものをねらって作らない。入力した指示文など、作った過程を確かめられるように残しておく
- 使う前に、インターネットの検索などで、既存の作品に似ていないかを確かめる
同じガイドラインは、場面による違いも説明しています。授業の過程で使うなら、著作権法第35条により、許諾なく使える場合があります。しかし、学校のホームページに載せたり、外部のコンテストに出したりすると、授業の範囲を超えます。自分のパソコンで作るだけなら、私的な利用に当たりえます。SNSに上げると、その範囲の外になる場合がある、とも書かれています(文部科学省, 2024)。「作る」と「外に出す」は、別の段階です。
商用で使うなら、もう一つ見るものがあります。生成物を誰の権利として扱うかは、サービスの規約に書かれています。文部科学省も、生成物のライセンスの所在を規約で確かめるよう求めています(文部科学省, 2024)。ClaudeとChatGPTの個人向け規約は、出力についてその会社が持つ権利を利用者に譲る、と定めています(Anthropic, 2025; OpenAI, 2026a)。ただし、譲られるのは「その会社が持つ権利」です。他人の作品に似ていないかどうかは、別に確かめる必要があります。画像やスライドを作るときの注意は制作での使い方でも扱っています。
5. 責任が伴う領域では判断させない
病院に行くかどうか。契約書に判を押すかどうか。申告の数字をどう書くか。お金をどこに置くか。医療、法務、税務、投資、安全に関わる判断は、参考にはできても、AIに決めさせてはいけない領域です。
理由は、ここまでに見たとおりです。規約は、出力に誤りがありうると書いています。AI事業者ガイドラインは、人間の判断をあいだに入れることで、予期しない事故を防ぐこともできる、と書いています(総務省と経済産業省, 2026)。間違えたときに取り返しがつかない判断ほど、人が引き受けます。
使うとすれば、次の範囲にとどめます。
- 用語の意味を知る
- 専門家に何を聞けばよいかを整理する
- 専門家の説明を理解するための下調べをする
どれも、専門家に相談する前の準備としての使い方です。相談そのものの代わりにはなりません。
6. 学習では「先に自分でやる」
原則は3つです。時間を決めて、まず自分で考える。答えではなく説明を求める。提出物は自分の言葉で書く。
この原則は、公的な資料とも重なります。文部科学省のガイドラインは、不適切と考えられる使い方を例に挙げています。調べる学習で、教科書などを使う前に安易に使うこと。生成物をほぼそのまま自分の作品として応募や提出に使うこと。最初の感想や独創性を求める場面で安易に使わせること。定期考査や小テストで使わせること、です(文部科学省, 2024)。
反対に、使い方として考えられる例もあります。グループで一度まとめたあとに、足りない視点を探すために使う。自分で書いた文章をAIに直させ、それをたたき台にして何度も書き直す。どちらも、先に自分の考えがある使い方です(文部科学省, 2024)。
東京大学の学生向け方針も、同じ点を突いています。生成された文章をそのまま課題の回答にすれば、考える過程を鍛える機会を逃す、という指摘です(東京大学, 2023b)。研究で何が分かっているか、年齢ごとにどう使うかは、学習・受験でどう使うかに詳しく書きました。
7. 記録を残す
地味ですが、あとで効いてくる項目です。何をどう聞いたかを残しておくと、次の2つが分かります。
- うまくいった聞き方——次も使えます。
- 繰り返し聞いていること——そこが、自分の弱いところです。
同じことを何度も聞いているなら、そこは自分で身につける候補です。学習でも仕事でも、記録があればそれに気づけます。
記録は、自分を守る材料にもなります。文部科学省は、課題でAIを使ったときに残すものの例を挙げています。ツールの名前、入力した指示文と出力、日付です。著作権の面でも、作った過程を確かめられる状態にしておくよう勧めています(文部科学省, 2024)。「どう作ったのか」と聞かれたとき、画面を見せて説明できます。
職場では、サービスの説明書きも記録のうちです。AI事業者ガイドラインは、提供者から受け取った文書を保管して活用すること、定められた規約を守ることを挙げています(総務省と経済産業省, 2026)。規約のページを印刷して日付を書いておく。小さな職場なら、それで十分に役立ちます。文書をまとめる作業での使い方は整理での使い方を見てください。
8. 定期的に見直す
ルールは、一度作って終わりにできません。前提のほうが動くからです。
- できなかったことが、できるようになっている
- 料金やプランの条件が変わる
- 規約(入力した内容の扱いなど)が変わる
- 学校や職場の決まりが、新しくできたり改まったりする
どのくらい動くのか。AI事業者ガイドラインを例にします。第1.0版は2024年4月19日。第1.01版が2024年11月22日。第1.1版が2025年3月28日。第1.2版が2026年3月31日。2年たらずのあいだに、4つの版が出ました(総務省と経済産業省, 2026)。
学校向けのガイドラインも同じです。2023年7月に暫定版が出て、2024年12月26日にVer.2.0へ改められました。本文には、必要に応じて改訂すると書かれています。利用規約がひんぱんに変わるおそれも、リスクの例に挙がっています(文部科学省, 2024)。
サービスの側も動いています。Geminiのプライバシーの説明ページは、最終更新日が2026年9月24日でした。この記事のために確かめた日の、9日前です(Google, 2026b)。
見直しの間隔に、決まった正解はありません。半年に一度、という目安を置いておきます。根拠のある数字ではなく、忘れないための区切りです。学期の始まりや年度の替わり目に合わせると、続けやすくなります。
家庭・学校・小さな職場で、誰が何を決めるか
ルールは、決める人がいなければ決まりません。場面ごとに、誰が、最初に何を決めるかを並べます。右の列は、そのとき開く資料です。
| 場面 | 決める人 | 最初に決めること | 開く資料 |
|---|---|---|---|
| 家庭 | 保護者と本人 | 入れない情報。使うサービスの年齢の条件。学習に使わせない設定。宿題での使い方は学校の指示に合わせる | 個人情報保護委員会の一般の利用者向けの留意点。各サービスの規約 |
| 学校 | 教育委員会の方針のもとで、校長と担当の教師 | 約款の年齢制限の確認。保護者への説明。課題での引用の書き方。テストでは使わせないこと | 文部科学省のガイドラインVer.2.0と、巻末のチェック項目 |
| 小さな職場 | 経営者か、任された責任者 | 入力しない情報。個人向けか法人向けかの契約。確かめる担当。AIを使ったことを伝える場面 | AI事業者ガイドラインの第5部。個人情報保護委員会の事業者向けの注意点 |
学校向けのガイドラインには、巻末にチェック項目が付いています。教職員が校務で使うときの7項目と、児童生徒が学習で使うときの10項目です(文部科学省, 2024)。保護者が読んでも、学校が何を確かめているのかが分かります。面談の前に目を通しておくと、質問が具体的になります。
小さな職場では、AI事業者ガイドラインの第5部が入口になります。事業でAIを使う者に向けた部分で、長くはありません。提供者が想定した範囲で使う。出力の精度とリスクを理解して使う。個人情報と機密情報を不適切に入力しない。規約を守る。この記事の8つのうち、入力しない情報、出力の確かめ方、記録と規約の項目と重なります(総務省と経済産業省, 2026)。
家庭のルールをまるごと示した公的な資料は、今回読んだ範囲にはありません。だから、紙1枚でかまいません。入れない情報、使うサービス、設定を確かめた日。この3つを書いて、家族で見える場所に置いてください。メールや文章を作るときの使い方は文章での使い方にあります。
チェックリスト
使い始める前と、見直しのたびに確かめます。全部に印が付かなくてもかまいません。付かなかった項目が、次に決めることです。
- 入力してよい情報の線引きを決めたか
- 使うサービスの年齢の条件を、規約で確かめたか
- 入力した内容が学習に使われるかどうか、設定の画面で確かめたか
- 出力を誰が確かめるか決めたか
- 事実・数値は元の資料で確かめたか
- 使ったことを伝える場面と、書き添え方を決めたか
- 生成物を実物として使っていないか
- 商用で使ってよい条件かを確かめ、既存の作品に似ていないかを見たか
- 学習では、自分が先に考えを出しているか
- 次に見直す日を決めたか
この記事の限界
よりどころにした公的な資料は、学校や事業者に向けて書かれたものです。家庭への当てはめは、この記事の提案です。国が家庭向けに定めた基準ではありません。8つのルールを守れば事故が起きない、と確かめた研究もありません。
法律の解釈は断定していません。個人情報保護法、著作権法、景品表示法に関わる箇所は、資料に書かれている範囲を紹介しただけです。自分の場合に当てはまるかどうかは、専門家に確かめてください。
サービスの規約と設定は、2026年10月3日に確かめた内容です。扱ったのは3つのサービスだけで、ほかのサービスは確かめていません。OpenAIの規約とヘルプは、公式ページを直接取得できませんでした。そのため、Internet Archiveが2026年9月30日に保存した公式ページの写しで確かめています。規約も設定の名前も変わるので、使う時点の画面で確かめてください。
大学の例は2校で、どちらも2023年に公表された文書です。ほかの学校や、いまの各授業の決まりを代表するものではありません。人がAIを信じすぎるという研究は、米国の大人などを対象にした実験です。対象になった言語モデルも、2024年までのものです。子どもや日本語の会話で同じ結果になるかは、確かめられていません。
出典
- 文部科学省 (2024). 初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン Ver.2.0(2024年12月26日公表、2026年10月確認). ガイドライン原本
- 文部科学省 (2023). 大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(2023年7月13日、2026年10月確認). 文部科学省の報道発表
- 個人情報保護委員会 (2023). 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(2023年6月2日、2026年10月確認). 個人情報保護委員会の注意喚起
- 文化審議会著作権分科会法制度小委員会 (2024). AIと著作権に関する考え方について(2024年3月15日、2026年10月確認). 文化庁掲載の考え方
- 総務省と経済産業省 (2026). AI事業者ガイドライン(第1.2版)(2026年3月31日公表、2026年10月確認). ガイドライン本編
- 消費者庁 (2023). 令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。(2026年10月確認). 消費者庁の案内ページ
- 東京大学 (2023a). 生成系AI(ChatGPT, BingAI, Bard, Midjourney, Stable Diffusion等)について(2023年4月3日、2026年10月確認). 東京大学の案内ページ
- 東京大学 (2023b). 東京大学の学生の皆さんへ:AIツールの授業における利用について(ver. 1.0)(2023年5月26日、2026年10月確認). 東京大学の学生向け方針
- 大阪大学 (2023). 生成AI(Generative AI)の利用について(2023年4月17日、2026年10月確認). 大阪大学のお知らせ
- Anthropic (2025). Consumer Terms of Service(2025年10月8日発効、2026年10月確認). 個人向け利用規約
- Anthropic (2026). Is my data used for model training?(2026年3月16日付、2026年10月確認). Anthropic Privacy Centerの説明
- Google (2026a). Gemini ウェブアプリにログインする(Gemini アプリ ヘルプ、2026年10月確認). Geminiアプリのヘルプ
- Google (2026b). Gemini アプリのプライバシー ハブ(2026年9月24日更新、2026年10月確認). Geminiアプリのプライバシー ハブ
- OpenAI (2026a). Terms of Use(2026年1月1日発効。Internet Archiveによる2026年9月30日の保存版で2026年10月に確認). 利用規約の保存版
- OpenAI (2026b). How your data is used to improve model performance(Internet Archiveによる2026年9月30日の保存版で2026年10月に確認). ヘルプ記事の保存版
- Steyvers, M. et al. (2025). What large language models know and what people think they know. Nature Machine Intelligence. doi:10.1038/s42256-024-00976-7
- Klingbeil, A. et al. (2024). Trust and reliance on AI — An experimental study on the extent and costs of overreliance on AI. Computers in Human Behavior. doi:10.1016/j.chb.2024.108352
なお、当サイトの運営者は学習塾(武蔵野個別指導塾)を運営しています。子どもの勉強での使い方は、利害関係を明記したうえで学習・受験でどう使うかにまとめています。編集方針は運営者情報をご覧ください。
この記事のまとめ
- 入れない情報を先に決めます。家庭なら「名前・顔・学校・成績は入れない」の1行で足ります。
- 年齢の条件と、入力が学習に使われるかどうかは、サービスごとに違います。規約と設定の画面を自分で見ます。
- 人は、長い説明ほどAIを信じやすくなります。確かめる人を決め、確かめていない箇所はそう書いて残します。
- 使ったことは隠しません。学校の課題は授業ごとの決まりを先に聞き、サービス名・指示文・日付を残します。
- 生成物を実物として出さず、外に出す前に既存の作品に似ていないかを確かめます。法律に関わる判断は専門家に聞きます。
- 公的な資料も規約も改まります。見直す日を決め、そのとき最新版を確かめます。
よくある質問
生成AIに入力してはいけない情報は何ですか?
氏名や写真などの個人情報、成績、職場の機密情報、パスワードなどです。個人情報保護委員会は、入力した個人情報が機械学習に使われ、出力されるおそれがあると注意を促しています。学校向けのガイドラインも、氏名や写真を入力させないよう求めています(個人情報保護委員会, 2023; 文部科学省, 2024)。
入力した内容がAIの学習に使われないようにできますか?
多くのサービスで、設定から選べます。ただし、学習を断る設定にしていても、回答に評価を送った会話は使われることがあります。設定の名前や規約は変わるので、使う時点の画面で確かめてください(Anthropic, 2025; Google, 2026b; OpenAI, 2026b)。
子どもは何歳から使えますか?
サービスごとに違います。2026年10月に確かめた規約では、13歳以上で18歳未満は保護者の許可が必要なもの、18歳以上が条件のものがありました。学校で使うときは、校長と担当の教師が約款を確かめる手順が示されています(OpenAI, 2026a; Anthropic, 2025; 文部科学省, 2024)。
AIの答えはどこまで信じてよいですか?
事実・数値・固有名詞は、元の資料で確かめてください。米国の301人の実験では、説明が長いほど、答えの正しさは変わらないのに信頼が上がりました。米国の大人が対象で、子どもや日本語では確かめられていません(Steyvers et al., 2025)。
学校の課題にAIを使ったら、どう書けばよいですか?
まず授業ごとの決まりを確かめます。文部科学省は、引用するときにサービスの名前、入力した指示文、使った日付を明示する例を挙げています。大学には、生成された文章をそのまま自分の文章として出すことを認めない方針の例があります(文部科学省, 2024; 東京大学, 2023b)。