秦の始皇帝の「写真」が出回ったら見抜けるのか|生成AIが作った画像を見分ける研究
何枚もの人物画像が、駅で開いたスマートフォンの画面に並んでいます。服のしわや肌の質感が細かく描かれていると、添えられた人物名まで確かに思えてきます。秦の始皇帝は、中国を初めて統一した秦の王です。写真の技術はずっと後の時代に生まれたので、本人を当時撮影した写真という説明は成り立ちません。
- 写真らしい顔と、実在する人物を撮った記録との違い
- 見分けた自信と、実際に正解したかどうかのずれ
- 顔画像の訓練による改善と、検出AIにも残る誤判定
- 投稿者・掲載日・元の資料をたどってから共有する手順
秦の始皇帝の「写真」が出回ったら見抜けるのか|生成AIが作った画像を見分ける研究
何枚もの人物画像が、駅で開いたスマートフォンの画面に並んでいます。服のしわや肌の質感が細かく描かれていると、添えられた人物名まで確かに思えてきます。秦の始皇帝は、中国を初めて統一した秦の王です。写真の技術はずっと後の時代に生まれたので、本人を当時撮影した写真という説明は成り立ちません。
それでも、歴史上の人物らしい画像を見て、生成AIの作品かどうかを自分の目で見抜けるかは気になるところです。当時の写真という説明は時代から退けられますが、画像の見た目だけで生成AIが作ったかどうかを確実に判断するのは難しいです。 顔の研究では、作られた顔が本物以上に本物らしく受け取られる一方、訓練によって見分ける成績が上がる結果も出ています。そこで分けたいのは、画像が自然に見えること、説明が史実に合うこと、作られた経緯をたどれることです。人に回すか、調べ学習の材料にするかを決めるには、画面の細部を眺める以外の手掛かりも使います。
要点
- 写真らしい顔と、実在する人物を撮った記録との違い
- 見分けた自信と、実際に正解したかどうかのずれ
- 顔画像の訓練による改善と、検出AIにも残る誤判定
- 投稿者・掲載日・元の資料をたどってから共有する手順
秦の始皇帝の「写真」は、画像と説明を分けて考えます
写真のような質感があることと、その人物がその場にいた証拠であることは別です。たとえば歴史上の人物を描いた画像に、その人物名だけが添えられていても、肖像の再現、創作の挿絵、撮影した物の記録など、画像の役割はまだ定まりません。最初に見るのは、投稿が何を主張しているかです。本人の姿を撮ったと主張しているのか、後から作ったイメージとして見せているのかによって、調べる問いが変わります。
秦の始皇帝について「当時の写真」とされる画像なら、題名にある問いへの答えは、時代と写真の関係から説明の誤りを見抜ける、というものです。しかし、その説明の誤りがわかっても、画像を作った道具まで特定したことにはなりません。人が描いたものか、加工したものか、生成AIが作ったものかは、制作の記録を別にたどる問いです。ここを一緒にすると、説明が変だという理由だけで、作者が使った方法まで言い切ってしまいます。
また、画像を見て人物名を覚えることと、その画像を歴史の証拠として扱うことにも違いがあります。創作の絵として眺めるなら、絵に描かれた細部を史実の根拠にする必要はありません。宿題で人物の姿や出来事を説明する材料に使うなら、何をもとに描いたのか、どの部分が作者の表現なのかを区別する必要があります。見た目の自然さを点検する前に、画像に担わせたい役割を決めると、必要な証拠がはっきりします。
自然な顔ほど、本物と感じることがあります
Nightingale(2022)は、AIが合成した顔と本物の顔を人に見分けてもらい、信頼できそうかも評価してもらいました。合成された顔は本物と見分けがつかず、本物より信頼できそうだと受け取られました。これは顔写真についての結果で、研究の抄録には参加者の国や人数、正答率の数値は示されていません。ここでの「信頼できそう」は顔を見た印象であって、写っている人物の行動や、投稿文の正しさを確かめた評価ではありません。
Miller(2023)は、成人124人の実験で、AIが作った白人の顔が、実際の人間の顔よりも「人間」と判断されやすいことを示しました。成人610人の別の実験では、顔の特徴と参加者が述べた理由を調べ、人が手掛かりを逆の意味に読んでいたことを示しました。この過剰な本物らしさは、自然に見える特徴が、そのまま正しい判定の手掛かりになるわけではないことを表しています。白人の顔について得られた結果として読む必要があり、日本人の顔や歴史上の人物全般に同じ傾向を広げる話ではありません。
同じMiller(2023)では、最も多く間違えた人ほど、自分の判断への自信が強いという結果も出ました。自信があるからこそ、追加で調べる必要を感じにくくなる点が、画像を受け取る側には気掛かりです。自分が何を根拠に本物と思ったのかを言葉にしてみると、肌が自然だった、表情が親しみやすかった、といった印象だけで決めている場合に気づけます。顔への好感と撮影記録への信頼を分けることは、画像の作者を疑うことよりも、判断の材料を整理する作業に近いです。
注意深く見ようとするだけでは、精度は上がりません
Frank(2024)は、米国・ドイツ・中国の参加者を対象に、音声・画像・文章で、人が作ったものとAIが作ったものを見分ける調査を行いました。参加者は3,002人で、扱った生成物は本物とほぼ見分けがつかず、多くの人は当てずっぽうで判断していました。どの国でも、どの媒体でも、AIの作ったものがむしろ人の作ったものと判断されやすい結果でした。顔の好ましさだけに限らず、内容を受け取るときの本物らしさが広い問題になることを示しています。
動画を扱ったKöbis(2021)は、参加者に何をするかを事前に登録した210人の実験で、注意喚起や正解への報酬を試しました。対象のディープフェイクは、人の顔や姿などを合成・改変して本物らしく見せる動画です。参加者は確実に見分けられず、注意を促す条件でも、報酬を出す条件でも、判定の精度は改善しませんでした。抄録には参加者の国と年齢の記載がなく、静止画の観察とは課題も異なります。
こうした結果を受けて、画像を見る際には「もっと疑う」と決めるだけでなく、判断に何を加えるかを考えます。自然に見えるかという問いだけなら、見直しても同じ印象を繰り返すことがあります。誰の投稿か、何の資料に載っているのかという問いは、画像の印象とは別の答えを探すものです。細部を拡大する作業を続けても根拠が増えていないときは、観察を終えて出どころを調べる段階へ移る目安になります。
訓練と検出AIは助けになりますが、働き方が違います
Gray(2025)は、顔を見分ける力が特に高い人と一般の人を比べ、描画の不自然さに注目する短い訓練も試しました。顔を見分ける力が特に高い人は合計283人、一般の人は合計381人で、前者は合成された顔の検出や区別がより得意でした。訓練を受けると両群の成績は上がり、一般の人も偶然で当たる水準を上回りました。単に注意を促す場合と、具体的な特徴の見方を学ぶ場合は、違う働きかけとして比べる必要があります。
Lu(2023)は、実際の写真とAIが生成した画像を人が区別する評価と、検出AIによる評価を、同じ条件で比べました。対象は国・年齢の記載がない参加者と検出AIで、人の誤判定率は38.7%、評価した中で最も成績の良い検出AIの失敗率は13%でした。検出AIとは、画像の特徴からAIで生成されたかどうかを判定する仕組みです。人より誤りが少なかったことと、誤判定が残ったことを、同じ比較の結果として読む必要があります。
検出の方法を比べるときは、何を見せ、何と比べた評価なのかをそろえて読みます。短い訓練で伸びたという結果は、人の観察を変える方法の評価です。検出AIの失敗率は、機械に判定させたときの評価であり、両者を同じ成績表として順位づけするものではありません。
| 研究 | 対象 | 比べた相手・条件 | 研究で言えること |
|---|---|---|---|
| Gray(2025) | 顔を見分ける力が特に高い人と一般の人 | 訓練を受ける前後の条件 | 短い訓練で、偶然で当たる水準を上回る成績になりました。 |
| Lu(2023) | 国・年齢の記載がない参加者と検出AI | 同じ条件での人と検出AIの評価 | 最も成績の良い検出AIにも誤判定が残りました。 |
出どころをたどるときは、投稿と元の資料をつなぎます
McGrew(2023)は、生徒がネット上の情報の信頼性を確かめる短い単元に取り組んだ前後を比較しました。574人のテスト結果で、ネット情報を評価する力が統計的に有意に伸びました。対照群を置いた比較ではなく、AI画像の検出だけを練習した研究でもありません。出どころを確かめる学習を考える手掛かりとして、画像の細部を見抜く訓練とは区別して使う結果です。
実際に画像を調べるときは、まず画像だけでなく、投稿者の名前、掲載日、説明文が一緒に見える状態を残します。次に、元の資料として本や記事、所蔵先などが挙げられているかを読み、リンク先があれば画像の説明までたどります。転載した人の名前だけで終わらず、最初に載せた人を探すことが目的です。手元にあるのが投稿の画面を切り取った画像なら、切り取られる前の投稿を探すところから始めます。
元の資料に到達したら、掲載されている画像と、SNSで見た画像の説明を照らします。人物名が同じでも、元の説明が復元のイメージや創作を示しているなら、その扱いを記録します。掲載日も、投稿された日と、画像が作られた日と、画像が表す出来事の時期を混ぜずに読みます。これらを別々にメモしておけば、古い人物の画像に新しい日付が付いていること自体を、矛盾と決めつけずに済みます。
画像を検索の手掛かりにできる場合は、同じ画像の掲載先を探し、それぞれに制作の説明があるかを読みます。見つかったページの数を、正しさへの投票のように数える必要はありません。どのページも同じ投稿を引いているなら、たどれた出どころは同じだからです。画像が置かれている場所を集める作業から、その画像を説明できる記録を探す作業へ、目的を絞ります。
保護者が見るのは、共有する前の短い説明です
保護者が見る点は、子どもが画像を人に回す前に、誰がいつ載せたものかを一言で言えるかです。画像の細部を当てる勝負にすると、正解したかどうかばかりが話題になりやすいです。出どころを短く言うやり取りなら、調べ終わった部分と、まだ途中の部分を分けて聞けます。駅で画面を一緒に見るときにも、画像に驚いた気持ちを否定せず、共有の前に説明が付いているかへ話を向けられます。
子どもが友人から届いたものだと答えた場合は、受け取った経路と、最初に載せた人を分けて聞きます。友人を信用するかどうかという話にせず、その友人も別の場所から受け取った可能性を考えます。まだ元の投稿までたどれていないという答えも、調べた範囲を正確に示す説明です。保護者がその答えを受け止めれば、知らない部分を隠して本物と言い切る必要がなくなります。
出どころをたどれない画像について、生成AIに作者や撮影場所を推測させ、その説明で空欄を埋める使い方は避けます。もっともらしい説明が増えても、元の制作記録が見つかったことにはならないためです。検出サービスを使う場合も、対象にできる画像や利用条件は、そのサービスの最新の説明で確かめます。判定結果だけを添えて共有を急ぐより、何を根拠にどこまで調べたかを残すほうが、後から判断を修正しやすくなります。
駅で開いた画面に戻ったら、共有する操作を先に進めず、元の投稿へ移ります。作者の説明と掲載日までたどれたものは、その記録を画像と一緒に残します。出どころが途中で途切れたものは、歴史の事実を示す材料にせず、共有も保留にします。
よくある質問
手や背景に不自然なところがあれば、生成AIの画像と決めてよいですか
不自然な箇所だけで、制作方法まで決めるのは避けます。Gray(2025)が試したのは顔画像の特徴に注意を向ける訓練であり、手や背景についての万能な判定規則ではありません。違和感のあった場所は調べるきっかけとしてメモし、作品の制作方法を説明する記録とは分けて扱います。
検出AIの結果を、作者がうそをついた証拠にできますか
検出AIの判定だけを、作者の発言の真偽や意図を決める証拠にはしません。先に見たLu(2023)の結果でも誤判定が残り、画像の分類と作者の意図の判断は別の問いです。判定結果を残す場合は、使った画像と検出の結果を記録し、作者についての評価を書き足さない形にします。
AIで作った画像は、調べ学習に一切使わないほうがよいですか
創作の挿絵として扱う用途と、出来事が起きた証拠として扱う用途を分けます。人物像を考える補助に使うなら、画像が示す細部をその人物の史実として説明しないようにします。文章の主張を支える資料と、内容を思い浮かべるための挿絵を別々に記録すると、使った目的が読み手にも伝わります。
この記事の限界
比較した研究は、成人の顔画像の判定、動画の判定、ネット情報の評価などで対象が異なり、歴史の場面を描いた画像を見分ける課題を直接扱った研究は今回集めた範囲にはありませんでした。日本の中高生が日本語の説明付き画像を判断する力や、顔画像の訓練の効果が長く続くかという点も、この研究群では測られていません。
生成や検出の仕組みが更新された現在の画像でも、報告された成績や手掛かりが同じように働くかは、これらの評価だけでは定まりません。出どころを評価する学習も別の課題であり、画像の真偽を直接調べた研究の多くが扱った対象は顔の写真と動画に限られます。
参考文献
- Nightingale SJ ほか. AI-synthesized faces are indistinguishable from real faces and more trustworthy. Proc Natl Acad Sci U S A 2022;119(8):e2120481119.
- Miller EJ ほか. AI Hyperrealism: Why AI Faces Are Perceived as More Real Than Human Ones. Psychol Sci 2023;34(12):1390-1403.
- Frank J ほか. A Representative Study on Human Detection of Artificially Generated Media Across Countries. In: 2024 IEEE Symposium on Security and Privacy (SP). 2024:55-73.
- Köbis NC ほか. Fooled twice: People cannot detect deepfakes but think they can. iScience 2021;24(11):103364.
- Lu Z ほか. Seeing is not always believing: Benchmarking Human and Model Perception of AI-Generated Images. In: Advances in Neural Information Processing Systems 36 (NeurIPS 2023). 2023:25435-25447.
- Gray KLH ほか. Training human super-recognizers’ detection and discrimination of AI-generated faces. R Soc Open Sci 2025;12(11):250921.
- McGrew S ほか. Civic Online Reasoning Across the Curriculum: Developing and Testing the Efficacy of Digital Literacy Lessons. AERA Open 2023;9:23328584231176451.
AIのもっともらしい間違いを、ひとつずつ一緒に疑う時間
- 向く人: 生成AIの説明と教科書が食い違ったとき、どちらが正しいかを根拠から確かめたい生徒
- 向く人: 子どもが生成AIで調べた答えをそのまま信じていないか、気になっている保護者
- 向かない人: 宿題や小論文を生成AIに書かせて、早く提出できればよいと考えている人
- 向かない人: 答えの根拠には興味がなく、正解だけを短く知りたい人
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よくある質問
手や背景に不自然なところがあれば、生成AIの画像と決めてよいですか
不自然な箇所だけで、制作方法まで決めるのは避けます。Gray(2025)が試したのは顔画像の特徴に注意を向ける訓練であり、手や背景についての万能な判定規則ではありません。違和感のあった場所は調べるきっかけとしてメモし、作品の制作方法を説明する記録とは分けて扱います。
検出AIの結果を、作者がうそをついた証拠にできますか
検出AIの判定だけを、作者の発言の真偽や意図を決める証拠にはしません。先に見たLu(2023)の結果でも誤判定が残り、画像の分類と作者の意図の判断は別の問いです。判定結果を残す場合は、使った画像と検出の結果を記録し、作者についての評価を書き足さない形にします。
AIで作った画像は、調べ学習に一切使わないほうがよいですか
創作の挿絵として扱う用途と、出来事が起きた証拠として扱う用途を分けます。人物像を考える補助に使うなら、画像が示す細部をその人物の史実として説明しないようにします。文章の主張を支える資料と、内容を思い浮かべるための挿絵を別々に記録すると、使った目的が読み手にも伝わります。